糖尿病とは

糖尿病イメージ画像

食物によって摂取された炭水化物(糖質)などの栄養はブドウ糖に変換され、血液によって全身に運ばれます。このブドウ糖の血液中における濃度が「血糖値」で、血糖値が高い高血糖の状態が慢性的に続いてしまっているのが糖尿病です。血糖値は通常、空腹時に70~110mg/dlくらいで、食事後には血糖値の上昇がみられますが、上限は140mg/dl程度が基準値とされています。この基準を上回ってしまうと、高血糖と診断されます。

現在、日本において約1000万人の方に糖尿病が強く疑われており、その割合は約12.1%と高くなっています。しかし糖尿病は、初期にはほとんど自覚症状がないため、健康診断などで血糖値の異常がみられても、そのままにしている方が少なくありません。

しかし糖尿病は治療せずにいると、全身の血管にダメージを与えてしまうのが特徴で、それにより、様々な臓器などに合併症を引き起こしてしまいます。中には命に関わるものや、失明、人工透析、下肢の切断といった生活の質を大きく落としてしまうことにつながるものもありますので、早期に治療を開始し、合併症の発症や進行を予防することが非常に大切です。

糖尿病の原因

ブドウ糖は血液によって全身に運ばれ、細胞に取り込まれて、細胞が活動するエネルギーになります。その際、膵臓で作られ、分泌される「インスリン」というホルモンが、ブドウ糖をグリコーゲンというエネルギー源に変換したり、脂肪として蓄えられるようにしたりします。この時、インスリンの働きが弱まったり、分泌量が少なくなったり、インスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性といいます)が進行したりすると、糖が取り込まれずに血管内にあふれ、高血糖状態となって、やがて糖尿病を発症してしまいます。

インスリンは、食後に血糖値が上がるとそれに反応して膵臓から分泌されます。細胞の表面にはインスリン受容体があり、インスリンがこれに結合することで細胞は血液中のブドウ糖を取り込むことができ、エネルギー源として活用可能になります。余ったブドウ糖はグリコーゲンや中性脂肪に合成されて蓄えられますが、その合成の促進を行うのもインスリンの働きです。

こうしたインスリンの機能によって血糖値は下げられますが、血糖値を下げられるホルモンはインスリンのみです。日本人は欧米人に比べてインスリン分泌予備能が低く、早期に分泌能が低下してくると言われています。それにより、食事が欧米化したことと併せ、日本人の糖尿病人口が急増する原因ともされています。

さらに過食や運動不足による肥満、とくに内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)では、インスリンの感受性が低下し、インスリンが効きにくくなります。すると血糖値を下げるためにより多量のインスリンを分泌しなければならなくなり、膵臓に負担がかかります。その結果、次第にインスリンの分泌量が低下し、糖尿病を発症、病状は進行してしまいます。

こうした生活習慣が関わる糖尿病は「Ⅱ型糖尿病」と呼ばれ、全糖尿病患者様の約9割が該当するとされています。それ以外には「Ⅰ型糖尿病」と呼ばれるものがあり、これは遺伝的要因やウイルス感染等による免疫異常などで膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌されなくなることで発症するものです。このほかに妊娠中にホルモンなどの影響でインスリンの働きが低下し、高血糖になってしまう「妊娠糖尿病」と呼ばれるものもあります。

糖尿病の症状

糖尿病では初期にはほとんど自覚症状が現れません。ある程度進行してくると、喉が異常に乾いたり、頻尿になったり、疲れやすくなったりします。また急激に体重が増えたり減ったりということもあります。さらに進行すると、手足がしびれる、感覚が鈍くなるといった症状が現れる場合もあります。

一方、糖尿病で注意しなければならないのは、自覚症状が無い状態でも進行している合併症です。高血糖が続くと全身の大小の血管が傷つけられ、様々な疾患が引き起こされてしまいます。

大きな血管では、動脈硬化などが引き起こされ、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞等)や、脳血管障害(脳梗塞・脳出血等)、末梢動脈疾患(足の壊疽などを起こし、最悪な場合は切断しなければならなくなる)などを発症させる危険性が高まります。

また細小血管に障害が現れるのも糖尿病の特徴で、以下のような「糖尿病三大合併症」と呼ばれるものがあります。

糖尿病三大合併症

糖尿病網膜症
網膜の血管に障害が生じて、進行すると出血が起き、視力低下や失明に至ってしまうもので、日本人の失明原因の第2位となっています。自覚症状がなく進行し、突然、見えなくなることもあります。糖尿病と診断されたら、まず眼底検査を受けることが大切です。
糖尿病腎症
腎臓を構成する糸球体の毛細血管に障害が生じて糸球体の数が減少し、腎機能が低下してしまう合併症で、日本人が透析治療となる原因の第1位です。慢性腎不全で人工透析を受けている人の3分の1は、糖尿病腎症によるものとされています。
糖尿病神経障害
高血糖によって神経細胞が変化したり、動脈硬化によって神経細胞への血流が滞ったりすることで神経に障害が起こる合併症です。自律神経障害による異常な発汗や、胃の不調、便秘、下痢、排尿障害、勃起不全(ED)、立ちくらみ、足のつりなどがみられるようになります。さらに手足の末梢神経がダメージを受け、手足がしびれたり、火傷やけがをしても痛みがなく気づかなかったりすることがあります。最悪の場合、下肢切断や全身性の感染症など重篤な状態を引き起こします。

糖尿病の治療

生活習慣が関わるⅡ型糖尿病では、原因となっている生活習慣を改善することが治療の基本となります。まずは食習慣の見直しで、糖質の摂り過ぎを避ける、血糖値を上げやすい夜遅くの食事は控える、といったことに気をつけ、栄養バランスの良い食事を、規則正しく摂るようにします。食生活の乱れは、インスリン抵抗性をもたらす内臓脂肪肥満を引き起こしますので、注意するようにしましょう。

また高血糖の対策としては運動することも有効です。有酸素運動ではブドウ糖や遊離脂肪酸の消費が期待できます。また筋肉トレーニングを行うことも大切です。筋肉にはブドウ糖を取り込むことで血糖値をコントロールします。さらにブドウ糖をグリコーゲンとして蓄える役割を果たします。糖尿病では筋肉量が低下すると考えられており、活動量の低下はさらなる悪化につながります。その予防のためにも筋肉をつけていくことは重要です。

このほか生活習慣の改善としては、睡眠をしっかりととって規則正しい生活をする、なるべくストレスを溜めない、禁煙する、といったことが重要になります。当クリニックでは、患者様それぞれの状態や生活習慣を丁寧にみさせていただき、栄養指導をはじめとして、各々のライフスタイルに合わせた生活習慣の改善をサポートしていきます。

生活習慣の改善だけでは血糖値のコントロールが難しく、様々な合併症のリスクが高い場合は、薬による治療を行います。使用する薬としては、インスリンの分泌を促進したり働きを高めたりするもの、糖の吸収を遅らせるもの、血液中の糖を尿として排泄させるものなどがあります。

Ⅰ型糖尿病の場合は、インスリンがほとんど分泌されないため、自己注射によって、人工的にインスリンを補う治療になりますが、Ⅱ型糖尿病でも各種の薬物治療で効果がみられない場合は、Ⅰ型同様、インスリン自己注射を行うことになります。